慶應義塾幼稚舎は、慶應義塾の初等教育機関として、自由と自律の精神を大切に育んでいる伝統校です。受験のない内部進学制度を有し、お子様たちはのびのびと学び、多様な経験を通じて心と体の両面から成長を遂げていきます。
学業だけでなく、スポーツや芸術、地域との関わりなど、バランスのとれた教育が展開されているのが特徴です。
特に、福澤諭吉が提唱した「先ず獣身を成して後に人心を養え」という理念に基づき、体育教育への取り組みは群を抜いています。
財界や政界の名門一族が多く在籍する中でも、お子様たちには徹底した体づくりと礼節が求められ、まさに“中身で勝負”する姿勢が貫かれているのです。
そんな幼稚舎の入試で特に注目されるのが、他校にはない「運動テスト」。このページでは、その内容や評価の観点、そして家庭での効果的な準備方法について、プロが徹底解説していきます。
【慶應義塾幼稚舎】運動(体操)試験とは
幼稚舎の入試では、いわゆるペーパーテストは実施されません。その代わりとして、「運動」「行動観察」「絵画・制作」など、実技や態度を通じてお子様本来の力を見極める形式がとられています。その中でも特に大きな比重を占めているのが「運動テスト」です。
このテストで評価されるのは、単純な運動神経ではなく、指示を正しく理解し、落ち着いて行動に移せるかという基本的な生活力や、周囲との関係性、状況判断力など多岐にわたります。試験の中で“素”の姿が見えるよう設計されているため、飾らない日常の積み重ねが物を言う場面です。
今回は、慶應義塾幼稚舎の運動テストについて、実施形式や求められる力、家庭での備えなどを詳しくご紹介します。
【慶應義塾幼稚舎】運動(体操)試験が出題される理由
福澤諭吉が残した「独立自尊」という言葉には、身体的・精神的な自立の双方が含まれています。身体をしっかりと育てることで、自ら考え、判断し、行動できる人間を育てる——これが慶應義塾の教育の根幹です。
その理念は入試の場にも色濃く反映されており、運動テストでは、姿勢、集中力、周囲との調和といった非認知能力が評価の対象となります。体育の時間の延長ではなく、“人格の片鱗”を見る試験として設計されているのです。
【慶應義塾幼稚舎】運動(体操)試験例年の構成
運動テストは、男女別に複数日に分けて実施されるのが通例です。毎年内容に若干の変化はありますが、基本的には次のような構成が定着しています。
・模倣体操(お手本の動作を真似る)
・サーキット運動(複数の動作を連続でこなす)
・即時対応型の課題(その場での判断力を見る)
いずれの課題も、動きの正確さだけではなく、指示を理解して行動する力、周囲への配慮、そして一生懸命さや態度も含めた“全体の様子”が細かく見られています。
模倣体操(先生の動きを真似る)
模倣体操では、試験官の動きをよく観察し、それを忠実に再現することが求められます。一見シンプルな課題ですが、「見る」「理解する」「再現する」を瞬時にこなすためには高度な集中力と身体コントロールが必要です。
たとえば、手足の動きの順番や体の傾き、ポーズの保持時間など、細かな指示に正確に対応する必要があります。課題として出題されるのは、指先の折り曲げ運動、側屈、屈伸、ケンケン、バランス動作(飛行機ポーズなど)などです。
この課題で評価されるのは、観察力や記憶力だけでなく、正確に再現しようとする誠実な姿勢や、丁寧に取り組む意欲。試験官の目には、単なる動きの巧拙よりも、その子の「向き合い方」が映ります。
サーキット運動(複数の課題を連続でこなす)
模倣体操に続いて行われるサーキット形式の運動は、より総合的な力が問われる試験です。ここでは運動能力だけでなく、理解力、判断力、持続力、そして自己制御力といった、幅広い資質が評価されます。
たとえば、ダッシュ→ゴム跳び→ボールを拾って投げる→決められた場所へ戻す→フープを跳んでゴール、といった一連の流れをこなす中で、指示された順番を守れるか、混乱せずに最後までやりきれるかが大切です。
周囲のお子様と動線が重ならないように注意しながら、自分の課題に集中できるか。特に重要なのは、ミスをしても立て直そうとする意志や、焦らず丁寧にやろうとする落ち着きです。こうした行動の裏には、家庭で育まれてきた「日常の質」が見え隠れします。
【慶應義塾幼稚舎】最も大切なのは、運動(体操)試験中の身の振るまい
運動テストで忘れてはならないのが、お子様の“ふるまい”が試験官の重要な評価基準になっているという点です。行動の内容と同じくらい、「どのような姿勢で臨んでいるか」が見られているのです。
整列中にふざけたり、列から離れたりする子、指示が通らず落ち着きなく動いてしまう子は、それだけで印象を損ねる可能性があります。また、泣いてしまう、集中を欠く、途中であきらめる、といった反応もチェックされるポイントです。
運動能力に多少の得手不得手があったとしても、「しっかり話を聞き、真剣に取り組んでいる」「静かに順番を待てている」「失敗しても切り替えて頑張ろうとする」といった態度は、むしろ高評価につながることも多いのです。
つまり、日々のしつけや、家庭での言葉がけ、物事への取り組み方が、そのまま試験の中に“現れる”のが運動テストなのです。
【慶應義塾幼稚舎】家庭でできる運動(体操)試験対策
運動テスト対策は、特別なトレーニングを積むよりも、生活の中で自然と身につけられるような経験を重ねていくことが大切です。たとえば、家庭内でのちょっとした遊びや声かけが、お子さまの観察力や自己制御力、協調性を育てる大きなきっかけになります。
真似っこ遊びで模倣力をアップ
親御様が見本を示し、お子様がそれを真似するような遊びを日常に取り入れてみましょう。例えば、音楽に合わせて一緒に体を動かす「ダンスごっこ」や、鏡の前で左右対称のポーズを取ってみる遊びなどは、模倣力や観察力、身体の柔軟性を育むうえでとても効果的です。
さらに、家族で「先生のまねっこ遊び」を取り入れてみるのも良いでしょう。親御様が「右手をあげてー」「ケンケンしてー」とお手本を見せ、お子様がそれを追いかけるように真似をする。このようなやりとりを繰り返すことで、聞く力と見る力、そして素早く反応する能力が自然と身につきます。
遊びながら、社会的ルールの基礎を学ぶ
順番を守る、ルールに従う、といった“集団の中でのふるまい”は、家庭でも充分に養うことができます。じゃんけん列車、すごろく、かくれんぼなど、遊びの中で簡単なルールを守りながら過ごすことで、自然と社会性が育っていきます。
また、家族での簡単な競争ゲーム(たとえば、紙飛行機を飛ばして誰が一番遠くに飛ばせるか等)を取り入れると、お子様は勝ち負けを経験することができます。
勝っても負けても、結果を受け止める練習を家庭内でできるというのは非常に有意義です。さらに、兄弟姉妹がいるご家庭では、交代の順番を守る、譲り合うという経験も日常的に積むことができるでしょう。
上手くいかない時の対処法
お子様が失敗したり集中を切らしたときは、その原因を責めるのではなく、「ここまで頑張ったね」「すごく真剣にやっていたよ」と努力そのものを肯定してあげる声かけが大切です。そうした積み重ねが、「またやってみよう」という前向きな気持ちにつながり、試験当日の安定した行動にもつながります。
さらに、親御様があえて失敗する姿を見せるというのも有効です。たとえば、「パパも失敗しちゃった〜」「ママも跳べなかったよ」と笑って見せることで、お子様は「失敗してもいいんだ」「またチャレンジしてみよう」と自然に思えるようになります。
失敗を責めるのではなく、失敗を共有し、笑いに変える力こそが、お子様の挑戦意欲を支えてくれるのです。
生活習慣そのものが試験対策になる
運動テスト対策と聞くと、特別な体操教室やスポーツレッスンを思い浮かべがちですが、実は日常の中での「生活習慣」こそが最大の対策になり得ます。
朝きちんと起きて、挨拶をして、食事を丁寧に取り、決められた時間に片づけをする。こうした一つ一つの行動は、自己管理能力や集中力、けじめを持った行動の土台をつくります。
また、食事の場での「姿勢」や「食べる速度」、お手伝いの時の「気づき」や「率先して動けるか」といった行動も、運動テストで求められる“丁寧さ”や“落ち着き”につながっていきます。つまり、特別な準備をするのではなく、毎日の暮らしを大切にすることこそが、最大の受験対策なのです。
【慶應義塾幼稚舎】運動テスト(体操)がすごい!内容や対策方法についてプロが徹底解説!まとめ
慶應義塾幼稚舎の運動テストは、単なる運動能力の評価にとどまらず、お子様がもつ基本的な生活力、協調性、集中力、そして周囲との関わり方までがトータルで見られる試験です。
どれだけ丁寧に、そして誠実に取り組むことができるか。その“姿勢”を支えているのは、ご家庭の教育環境であり、親御様との対話であり、毎日の習慣なのです。
特別なことをしなくても、お子様のありのままの姿を信じ、日常の中でコツコツと育んでいくこと。それこそが、幼稚舎の入試における何よりの準備となるのです。
そして、試験当日に大切なのは「親御様がどれだけ安心してお子様を送り出せるか」。お子様自身の頑張りを信じて、背中をそっと押してあげてください。
大切なのは“完璧にやること”ではなく、“その子らしくやりきること”。その積み重ねが、未来の大きな一歩へとつながっていくのです。