1874年に創設された慶應義塾幼稚舎は、日本における私立小学校の草分け的存在として知られています。慶應義塾大学までの一貫教育が受けられる唯一の初等教育機関であり、その自由闊達な校風と個性を尊重する教育方針は、多くの保護者や教育関係者から高く評価されています。
慶應義塾幼稚舎は、学問のみならず、スポーツや芸術、そして何より「自主性」を大切に育てることが重視されています。お子様たちが自分の意思を持ち、自ら考え行動する力を育む、そんな学びの土壌が整っているのです。
本記事では、そんな伝統と歴史溢れる慶應義塾幼稚舎の入学試験の概要を、「どのような流れで実施されるのか」「どんな試験が行われるのか」といった試験の全容をプロが詳しく解説します。
【慶應義塾幼稚舎】入学試験の全容をご紹介
慶應義塾幼稚舎の入学試験は、一般的な小学校受験とは大きく異なる構成となっています。まず最大の特徴は、「ペーパーテスト」が存在しないこと。つまり、読み書き計算の学力を問う試験ではなく、身体活動や創造的表現、集団の中での振る舞いなど、より総合的な力が試される内容となっているのです。
運動能力、協調性、指示の理解力、創造力、自己表現力など、多角的な評価がなされます。それゆえに、単なる「お勉強の延長」としての対策では太刀打ちできません。普段の生活習慣や遊びの中で育まれる人間的な土台が、そのまま評価対象になるといえるでしょう。
このような背景から、慶應義塾幼稚舎の入試は“家庭教育”そのものが問われる場であるとも言われています。
【慶應義塾幼稚舎】入学試験 実施日程
まずは、2025年度(2024年実施)の入学試験日程をご紹介します。
試験日 | 受験者 |
2024年11月1日(金) | 女子1日目 |
2024年11月2日(土) | 女子2日目 |
2024年11月3日(日) | 女子3日目 |
2024年11月5日(火) | 男子1日目 |
2024年11月6日(水) | 男子2日目 |
2024年11月7日(木) | 男子3日目 |
2024年11月8日(金) | 男子4日目 |
試験日程は月齢によってグループ分けされ、さらにその中で少人数の単位で試験が行われます。例年、女子の試験が11月前半に、男子は後半に実施されるのが通例です。
また、女子の受験日と同時期には、雙葉・白百合・聖心などの有名女子校が入試を実施しており、併願を検討するご家庭にとっては判断の分かれどころになります。加えて、成蹊・青山学院・学習院といった大学附属の共学校も同時期に試験を実施しており、選択肢が多い分だけ迷いやすくもあります。
そのため、幼稚舎を本命とするならば、早い段階から日程を把握し、併願校とのバランスを考えて戦略的に準備を進めることが求められます。
【慶應義塾幼稚舎】入学試験 当日の流れ
ここからは、慶應義塾幼稚舎の入学試験当日の流れを、順をおって項目ごとにご紹介します。
・受付
・控室待機
・試験実施
・解散
慶應義塾幼稚舎の試験当日は、このような流れで進められます。
受付
正門から入場し、案内に従って控室(1階・2階いずれか)に整列します。受付では受験票を提示し、当日の注意点が記載されたプリントを受け取ります。試験は静かに、秩序正しく進行するため、受付時点から試験の雰囲気が始まっていると考えた方が良いでしょう。
控室待機
控室前で試験官に名前と受験票を伝え、指定された番号の席に着席。黒板には注意事項が掲示され、保護者の付き添いがあればトイレにも行けます。
しばらくして試験官の案内が始まり、お子様たちは上履きに履き替え、整列の準備をします。受験票を右手に持ち、列ごとに廊下へ。ここで「3つの約束」が伝えられ、心構えを確認します。
試験実施(お子様)
教室に入ると、ゼッケンとの交換と装着、椅子の背もたれについている印を覚える課題、上履きの裏のチェックなどが行われます。その後、体育館へ移動して本格的な試験が始まります。
試験実施中の待機(保護者)
お子様が教室へ向かった後、保護者は指示に従って控室を退出し、待機または解散の案内を受けます。
解散
終了予定時刻(受付から約2時間後)に合わせて西門から再入場し、控室でお子様と再会。順次解散となります。
【慶應義塾幼稚舎】お子様に課される3つの約束
前章「控室待機」の項で記した「お子様に課される3つの約束」をご紹介します。慶應義塾幼稚舎の試験を受ける際の定番のお約束であり、各お教室の慶應義塾幼稚舎コースでも繰り返し練習し、身に付けることを推奨されます。
① 受験票は次の教室まで、絶対に落とさないこと。
② 最後まで列を崩さず、前のお友達を追い越さないこと。
③ 廊下などの移動中は、おしゃべりをしないこと。
これらの約束は単なるルールではなく、「集団生活における基本的な姿勢」を試すものとして重要視されています。
【慶應義塾幼稚舎】入学試験 実施される試験内容
慶應義塾幼稚舎の入学試験で課される試験は具体的にどのような内容なのでしょうか。項目ごとにプロが解説します。
運動テスト
慶應義塾幼稚舎の運動テストは、単に身体能力を確認するためのものではありません。お子様が自分の体をどのように使いこなしているか、周囲の状況をどれほど柔軟に読み取りながら動けるかといった「心と体のバランス」や「自己制御力」を総合的に評価する内容になっています。
男女ともに準備運動と、指示された動きを組み合わせたサーキット運動が基本メニューとして用意され、男子の場合はさらにリレー形式の課題が加わります。クマ歩きやスキップ、ケンケン、平均台、跳び箱のような動きが含まれる場合もあり、身体の協調性やリズム感が求められます。
また、「ま ず 獣身をなして後に人心を養う」という福澤諭吉の思想にも通じるように、幼稚舎では身体の発達が人間形成の土台であると考えられており、運動テストに対する比重は非常に高いといえるでしょう。
注目すべきは、課題に取り組むときの“態度”です。楽しみながらも、自分をコントロールし、仲間と衝突せずに参加できているか。試験官はそこを非常に注意深く観察しています。
緊張して萎縮してしまう子、反対にテンションが上がりすぎて興奮してしまう子など、様々なケースが見られる中で、試験の空気感を察知して落ち着いて行動できるかどうかも大きな評価ポイントです。
練習の際には、動きそのものの完成度を高めるだけでなく、「説明を聞いてからすぐに動く」「他の子にぶつからずに行動する」「順番を守る」といった部分にも注意を払っておくと良いでしょう。
行動観察テスト
行動観察テストは、お子様の「人と関わる力」を多面的に評価する場です。こちらも年や時間帯によって内容は異なりますが、基本的には輪投げや玉入れ、神経衰弱、しりとりといった遊びの要素を含んだ課題が用意されています。
表面上は遊びに見えるものの、試験官が見ているのは「どう動いたか」ではなく、「なぜそう動いたか」「どう人と関わったか」といった思考と関係性の部分です。
個人行動では「言われた通りにできたか」だけではなく、「工夫をしていたか」「最後まであきらめずに取り組んでいたか」がポイントになります。集団行動では「チーム内での役割理解」「他者への配慮」「話し合いやジェスチャーによる意思疎通の様子」など、より高度なコミュニケーションスキルが問われます。
慶應幼稚舎のこの試験がユニークなのは、単なる“優等生的行動”ではなく、自分の意見を持ち、周囲とすり合わせていける“柔軟な主体性”が評価される点です。「正解通りに動く子」よりも、「自分で考え、工夫してみた子」の方が印象に残る場面もあります。
ご家庭でできる対策としては、兄弟姉妹や友だちと遊ぶ時間を大切にすることや、日々の生活の中で「ありがとう」「ごめんね」などの感情のやりとりを丁寧に交わすことが有効です。
また、おうちの方と一緒に「じゃんけんでチーム分け」「リーダーを決める」といった遊びを通じて、自分の立場や周囲への配慮を実感する機会を意識的に作ってみると良いでしょう。
絵画・制作テスト
絵画・制作テストは、お子様がどれだけ自由に、自分らしく表現できるかを見るための大切な試験です。描く・作るというアウトプットを通して、想像力や構成力、創意工夫の力、そして“テーマに対する理解の深さ”が評価されます。
内容は年度や時間帯によって異なりますが、テレビモニターによる課題提示、または先生からの口頭説明でスタートし、制限時間の中で自由に表現します。課題は「未来の乗り物」「楽しかった夏休み」「家族でお出かけした思い出」などのテーマ性のあるものが多く、描写力よりも“意味のある構成”が重視されます。
また制作中には、先生から「何を描いているの?」「どうしてこれを選んだの?」といった質問が投げかけられることもあります。ここでは、自分の作品について簡潔に説明できる力や、質問に対して受け答えできる落ち着きも評価の対象となります。
慶應義塾幼稚舎の絵画・制作は、他校と比べて“表現の自由度”が極めて高いため、事前の練習も型にはめすぎず、自由に発想を膨らませることが重要です。「上手に描こう」とするあまり、萎縮してしまうと、本来の創造性が抑えられてしまいます。
対策としては、テーマに関する会話を日常的に取り入れたり、「自由に描いて、それを説明してみる」練習を繰り返すのが効果的です。どんなテーマにも「自分なりの切り口」で取り組む習慣が、表現力を養う近道になります。
【慶應義塾幼稚舎】入学試験 当日の流れから全容をプロが徹底解説!まとめ
いかがでしたでしょうか。慶應義塾幼稚舎の入試は、他の学校にはない独自の視点でお子様と家庭を見つめるものです。そのため、受験対策とはいえども、短期間の詰め込みでは対応しきれない部分も多くあります。
だからこそ、日々の生活そのものが入試準備の一部と捉えることが大切です。親子の関係性、日常の習慣、お子様の自由な発想力や他者との関わり方。そうした一つ一つが、当日のふるまいや課題の取り組みにしっかりと表れてくるのです。
事前に試験の流れを知り、どんな空間でどんな行動が求められるのかを共有しておくことで、お子様も安心して本来の力を発揮できるはずです。自信と笑顔で当日を迎えられるよう、心の準備と、日々の積み重ねを大切にしていきましょう。