海外での生活を経て日本に帰国する際、お子様の教育環境選びに頭を悩ませる保護者の方は非常に多くいらっしゃいます。
「せっかく身につけた国際感覚を維持したい」「でも日本の学習環境にも馴染んでほしい」
そんな切実な願いの受け皿として、半世紀以上にわたり圧倒的な存在感を放っているのが、東京学芸大学附属大泉小学校です。
特に、同校に設置されている「国際学級(通称:ゆり組)」は、帰国生受け入れのパイオニアとして知られ、毎年狭き門となる人気を誇ります。
しかし、その実態や教育システムは、一般的な公立小学校やインターナショナルスクールとは大きく異なります。
本記事では、受験のプロの視点から、ゆり組の魅力や特殊性、そして入学に向けた対策までを余すところなく解説します。
東京学芸大附属大泉小学校「ゆり組=国際学級」
東京学芸大学附属大泉小学校における「ゆり組」とは、一般的に「国際学級」と呼ばれる帰国児童のための特設クラスを指します。
このクラスの歴史は非常に古く、昭和44年(1969年)にわが国で初めて海外帰国子女教育(日本語教育)のための特設学級として設置されました。
多くの保護者様が誤解されがちですが、ゆり組は1年生から存在するわけではありません。
現在は第3学年から第6学年までの児童を対象に設置されており、海外生活が長く、日本の学校文化や日本語での学習に特別な支援を必要とするお子様たちが在籍しています。
ゆり組の最大の特徴は、あくまで「日本の小学校への適応」を主軸に置いている点にあります。
インターナショナルスクールのように英語で全ての授業を行うわけではなく、日本の学習指導要領に基づきながら、少人数制で手厚い日本語指導や適応指導を行う場として機能しています。
一方で、クラスメイトは全員が海外経験を持つため、多様なバックグラウンドを持つ仲間同士で共感し合い、精神的な安心感を得ながら学校生活を送ることができる「ソフトランディング」の場としての役割も果たしています。
この「安心感」と「適応支援」の両立こそが、ゆり組が長年にわたり支持され続けている理由と言えるでしょう。
東京学芸大附属大泉小学校 ゆり組(国際学級)の目的と設置背景
なぜ、国立大学の附属小学校にこれほど手厚い帰国生のためのクラスが設置されたのでしょうか。
その背景には、東京学芸大学附属大泉小学校が担ってきた「実験的・先導的」な使命が深く関わっています。
昭和40年代、日本企業の海外進出に伴い帰国児童が急増しましたが、当時は彼らを受け入れる体制が公教育には整っていませんでした。
そこで、「帰国児童教育(日本語教育)」の研究校として、日本語の習得や日本の生活習慣への適応を図るための教育課程を開発するという重要な役割を担って設立されたのが、この国際学級です。
設置の目的は、単に「日本語を教える」ことにとどまりません。
学校側が掲げる目的には、日本語の習得だけでなく、「日本の生活・文化への適応・理解」や「基礎的な学力とコミュニケーションの育成」が含まれています。
さらに特筆すべきは、ゆり組の存在が学校全体の「国際教育」に直結している点です。
同校は国際バカロレア(IB)のPYP(初等教育プログラム)認定校でもあり、ゆり組の児童が持つ多様な経験は、一般学級の児童にとっても異文化理解の生きた教材となります。
つまり、ゆり組は「支援が必要なクラス」であると同時に、学校全体のグローバル教育を牽引する重要な存在としても位置づけられているのです。
このように、個への支援と学校全体の教育研究という二つの側面を持っていることが、設置の大きな意義となっています。
東京学芸大附属大泉小学校 ゆり組(国際学級)と通常クラスの違い
「ゆり組に入ると、普通クラスの子とは関われないのでしょうか?」という質問をよく頂きますが、答えは「いいえ」です。
東京学芸大学附属大泉小学校のカリキュラムは、ゆり組の独自性と全校の一体感を見事に融合させた「二重構造」になっています。
まず、学習面での違いを見てみましょう。
ゆり組では、国語や算数といった教科において、児童の日本語力に応じた「取り出し授業」や少人数指導が行われます。
特に、海外では習わない「漢字」や、独特の言い回しが多い「算数の文章題」などは、オリジナル教材を使って丁寧にフォローされています。
これは、いきなり大人数の中で一斉授業を受けることへの負担を減らすための配慮です。
一方で、給食、清掃、学校行事といった活動は、ゆり組の枠を超えて行われます。
ここでキーワードとなるのが「生活団」です。
これは1年生から6年生までが混ざり合う縦割りグループのことで、ゆり組の児童もこの生活団に所属し、一般クラスの児童と共に活動します。
つまり、学習は習熟度に合わせてきめ細かく、生活面では日本の学校らしい集団活動を通じて仲間と関わるという、メリハリのある学校生活が送れるのです。
また、注意が必要な点として、ゆり組では「外国語の会話力の保持教育は行わない」と明記されています。
英語の授業自体は全校で1年生から実施されていますが、ゆり組があくまで「日本語での学習適応」を目指す場所であることは、一般クラスとの違いを理解する上で最も重要なポイントと言えるでしょう。
東京学芸大附属大泉小学校 ゆり組(国際学級)に入学するために
東京学芸大学附属大泉小学校のゆり組に入学するためには、非常に厳格な応募資格を満たした上で、高倍率の編入試験を突破する必要があります。
まず、応募資格についてですが、原則として「海外生活が2年6ヶ月以上」あり、かつ「帰国後1年以内」であることなどが求められます。
特に注意が必要なのが通学条件です。「保護者と共に居住し、公共交通機関等を使って片道40分以内で通学できること」というルールは極めて厳格に運用されており、合格後に転居する場合でも、事前の審査で承認されなければ入学許可が下りません。
選抜試験(調査)の内容は、筆記と面接です。
筆記試験では、国語と算数の基礎的な内容に加え、日本語と外国語の両方を用いた作文が課されることが一般的です。
ここでは単なる学力だけでなく、滞在国での経験をどのように捉え、表現できるかという思考力も問われます。
また、面接は児童だけでなく保護者面接も行われ、家庭での教育方針や、学校の教育理念(特に日本語適応教育の目的)を正しく理解しているかが重視されます。
「国際学級」という響きから、英語力重視の試験を想像される方もいますが、実際には「日本語を学ぶ意欲」や「日本の学校文化への順応性」が強く見られます。
さらに、卒業後の進路として隣接する「東京学芸大学附属国際中等教育学校」への連絡進学枠があることも人気の理由ですが、これは全員が無条件に進学できるものではなく、一定の基準があることも理解しておく必要があります。
【まとめ】【帰国子女にも人気】東京学芸大附属大泉小学校のゆり組(国際学級)のすべて
東京学芸大学附属大泉小学校の「ゆり組」について多角的に解説してきましたが、最後に改めてその教育的価値と受験に向けた心構えを整理しておきましょう。
まず何よりも理解しておくべきは、ゆり組が決して「英語力を保持・伸長させるための場所」ではないという点です。
むしろ、海外で培った多様な価値観や探究心といった「根っこ」を大切に守りながら、日本の学校文化や日本語という新たな土壌にしっかりと根を張らせるための「移植と適応」の場であると捉えるのが正解です。
この「適応」を、同じ境遇を持つ仲間がいるゆり組という安心できるホームベース(居場所)と、一般児童と交わる生活団というアウェイ(挑戦の場)を行き来しながら進められる環境こそが、半世紀にわたり多くの帰国生家庭から選ばれ続けている最大の理由なのです。
また、保護者の皆様にとって見逃せないのが、卒業後のキャリアパスです。
隣接する東京学芸大学附属国際中等教育学校への連絡進学制度は、中学・高校段階でより本格的な国際バカロレア(IB)教育やイマージョン教育へと接続するためのプラチナチケットとも言えます。
しかし、その切符を手にするための編入試験は、厳格な通学時間制限(40分ルール)や、日本語での高い思考力・表現力が求められる狭き門です。単に「海外にいたから」というだけでは合格はおぼつきません。
ご家庭が学校の掲げる「国際適応教育」の理念を深く理解し、お子様が海外経験をどう自己形成に活かしているかを日本語で語れるように準備することが、合格への唯一の近道となるでしょう。
お子様の「日本人としてのアイデンティティ」と「グローバルな視野」の両立を目指すのであれば、挑戦する価値は十分にあります。
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